蹴りたい背中、蹴りたい?
書くと言いながら、ずっと書いていなかった「蹴りたい背中」の感想。
ウェブ上で感想を探して歩く限り、マスコミの騒ぎ方に比べて、評判はよくないようだ。手放しで「よかった!」「感動した!」と絶賛しているものもあれば、単にイマイチだったと書いているものもある。何もそこまで悪意をもって辛辣な書き方したんくてもいいでしょう?と思うほどこき下ろしているものもある。
率直に私の感想をいえば、「まあ、そんなもんかな。いいんじゃない?」というところ。悪い本ではないと思う。まだ読んでいない人は変に先入観を持たないで一度読んでみるといいと思う。ぼくもマスコミがあんまり騒ぐものだから、ちょっと警戒して読みはじめたのだけれど、結果的にはどちらかといえば好感触。
でも、批判しているひとたちのいいたい事も分からなくもない。
まず、「感動した!」って手放しで褒めちぎっているひとたちがいるけれど、そもそも「感動」するような本ではないと思う。読み終わった後に一服の清涼感はあるにはあるけれど、それは「感動」なんかじゃないと思う。「感動した」っていう人はもう一度最初から読み直してみた方がいいと思う。「全員基礎からやり直し!」(アミノサプリのCM風)
それに、「わかるわかる!」ってあまりに沢山のひとが書いていると、本当に分かっているの?という気になってくる。「蹴りたい背中」という感情なんてそんなに普遍的な感情じゃないと思う。ハツが周囲の子たちに抱いている感覚だって、きっとクラスから浮いたことのある人じゃないと分からない。それに、分かる人からしたらそれほど新鮮なことでもない。
ストーリーにしたって、何か面白いことが起きるわけでもない。かといって、何か引き込まれるような独特の世界観があるわけでもない。だからそういうことに遭遇したようなことをいっている人はどこかズレていると思うし、これから読む人は、そういうことは期待しない方がいい。
でもね。
にも関わらず、ぼくは結構好きだと思った。
確かに、何か深いものがあるわけではない。すらすらって読めてしまうけれど、読んだ後に読み返してみたいという気はそれほど起こらない。何か重厚なものを期待して本を開いた人たちにとっては、裏切りに違いない。でも、それは違う期待をしてしまっていたからであって、それ自体は悪いことではないと思うんだ。分ったような分からないような一言でいってしまえば、この本は善かれ悪しかれ、「消費」に適した本なんだと思う。すらすらっと読めちゃうし、1000円だし。それでもって、「なんか、いいよね。」ってそんな本なのだと思う。
たぶん、芥川賞なんていう厄介なものを貰ってしまったから、めんどうくさいことになってしまっただけなんだ。確かに、この部分だけは、ぼくも良く分からない。ぼくは文学のことなんて全く分からないけれど、芥川賞に値する作品かと問われたら、大きなはてなマークで返したい。
ただ、一つの可能性として、もし芥川賞を選んだ人たちが、昨今の活字離れを念頭に、みんなが簡単に消費できちゃって、作者がちょっとかわいらしくて、話題性がありそうで、その上、もちろん本自体もなかなかだから、あげちゃおう、という魂胆なら...それはそれで理解出来なくもない。太宰治なんかは悔しくて悔しくて泣いちゃうだろうけど。