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Saving the Sun


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新生銀行の再上場というイベントもあり、G. Tett, "Saving the Sun: A Wall Street Gamble to Rescue Japan from its Trillon-Dollar Meltdown"に興味を持って、読んでみた。
この本は、日本のバブル経済の崩壊・金融機関の危機が何故生じたのか、という問題を扱った本。日本長期信用銀行の歴史に焦点をあてながら、戦後の驚異的な経済成長をもたらした日本というシステムが何故これまでの停滞に陥ってしまったかを検証している。

バブル経済の崩壊については多くのことが言われている。しかし、問題をめぐる多くの議論が「トップダウン」的なものであり、「高度3万フィートから見下ろして書かれたかのような気分にさせるもの」である・・・
著者は前書きでこのように述べる。裏表紙によれば、著者のTettという人はジャーナリストに転身する前は社会人類学を学んだ経歴の持ち主らしい。著者のフィールドワーク的なアプローチに期待しつつ、読み進めた。

確かに、綿密で周到な取材に基づいて書かれているという印象は受けた。それは本文を通しての印象でもあったし、巻末のacknowledgementsなどからも随分といろんな人からのfirst-handの情報を元に書いている事が分かる。でも、実際の議論の中身はどうかというと、「日本人は和を重んじるから」「株主よりも身内を大事にするから」等々、10年前にすでに聞き飽きたようなステレオタイプ的な日本異質論から一刀両断。いまだにこんな「わかりやすい」説明で納得する人がいるんだろうか、というくらいに。登場人物たちの証言をいくら積み重ねても、予め語りたい物語のピースとして都合良く組み込まれていくだけのようで、全く説得力には結びついていない。むしろ、その根底にある偏見がどんどん見え透いてくるだけ。結局、日本上空高度3万フィートどころか、海の遥か向こうから眺めているのと同じじゃないか、といいたくなる。

そういう意味では、まったくひどい本。
とはいえ、全くのハズレ、という訳でもなかった。非常に読みやすい本ではあるし、一連の出来事に関わった人物たちを全面に押し出す事によって物語をいきいきと描き出す事には成功している。一旦読みはじめると読み終わるのが随分と早かった。<日本が今なお直面する深刻な問題にかかわるノンフィクション>としてではなく、1つの<ストーリー>としてならば、それなりに楽しめた。

ただ、海の向こうで「ふむふむ、そうだったのか」と真に受けている読者もいるかもしれないと思うと・・・。かなり複雑な気分にはなる。でも、それはまた別の問題なのかもしれない。

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2004年03月01日 05:21に投稿されたエントリのページです。

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